| 1.ほんのさ | 2.こんやあ | 3.あさてさ | 4.ここはみ |
| 5.はじめて | 6.きょうだ | 7.なにもか | 8.あすのて |
| 9.たいしょ | 10.おとをた | 11.くらいよ | 12.とおいと |
| 13.きょうだ | 14.めいのか | 15.それはま | 16.ひとであ |

| 本の最後のページを閉じる。 ここ1週間愛でるように、読んできた本が終わりを迎えたのだ。 はぁ… 残る余韻と、感慨深さにため息が出る。 こんな本が自分に書けたら…。 全く知らない人をこれほど感動させられる本が書けたなら。 |
| 「今夜、あそこのパーティ行かれるのかしら?」 あそこ、と表現したのは聞かれてまずいのか、名前も出したくないのか。 どちらにしてもそれを試すにはリスクが大きそうだ。と私は判断したため、 「あそこ…ですか?」 とすっとぼけた。 お金で何でも手にはいると思っている…いや、美貌でも、か。そんなオーラを身にまとっているこの目の前の女性がどうしても好きになれなかったのだ。 「あら? 聞いてなかったのかしら?」 口調が高飛車になる。 何故なのかは分からないのだけど…。 「あなたの大好きな方が来られるパーティなのに」 なんとなく、その言葉の端々にあるトゲに私は不快感を覚えた。 |
| 朝、手先が冷たい。 ずいぶん今日は冷えている。 そんな冷たさで時間に気がついた。 「…3時半…か」 手が冷えて、キーボードを打つのが辛くなっていた。 それほど気がつかなかった自分に、半ばあきれた。 人を感動させる作品、か… 私はずっとそればかり考えていた。 人が感動するとはどういうことだろう? 心からこみ上げてくる感情を自分の文章で表現するだなんて、大それたことじゃないのかと。 考えると、考えただけ不安になってくる。 考えるのはよそう、こういう時に一番良い方法を知っている。 今からすぐに布団にもぐりこんで、すぐに寝ちゃうことだ。 |
| 「ここは、みぃのところだから入っちゃダメなんだからね」 公園で遊ぶ子どもたちの声がした。 「ふん、そんなこと言わなくったっておまえとは一緒に遊ばないんだからなっ!」 言い合う声がする。 ちょっと気になって、足を止めた。 4,5歳ぐらいの女の子と男の子。 周りに親の姿はない、二人で遊びに来たのか。 いつも遊びに来ているようで、遊具にも場所にも慣れているようではあった。 ただ、今日は何か事件があったのでけんかになってしまったのだろう。 「だって、ゆうくんすぐに乱暴するでしょ」 この頃の女の子は小さくてもしっかりしている。 お姉さん(なのかもしれないが)ぶった口調で男の子に言うと、それに呼応するように男の子が言い返す。 そんな光景がなんだかほほえましくて、きっとあと少ししたら仲直りするんだろうなと想像しながら、私は足をすすめた。 予約の美容院の時間は、3時だった。 |
| 初めて髪の毛を伸ばしていた。 ずっと幼少の頃から髪の毛を伸ばすのをいやがり、いつもベリーショートで過ごしていたので、私にとって肩までつく長さ、は快挙とも言える。 「どんな風にされますか?」 美容師の元気な声がする。 私はしばし悩んでから 「とりあえず、少し短くしてから」 あとは… 「適当に、おまかせで」 私の言葉にそれほど驚かなかった。 「そうですか、どのぐらい切りますか?」 「んーもう。なんか分からないから適当に。似合うようにしてください」 分かりました、と変わらず元気な声で美容師の彼女は私の髪の毛を触り始める。 なかなか腕に自信があると見た。 この注文で驚く美容師さんはまだまだアマちゃんだと勝手に思っている私なのだ。 これからもここを利用しよう。 |
| 兄弟で作家だという、私のあこがれの人。 今日は授賞式で、その後に親睦パーティが開かれていた。 そして、なぜか私はそこにいた。 私にとって雲の上の存在の人が、目の前に(といっても、10メートルは向こうか)いらっしゃる。 それだけで、私の心はときめいた。 どちらも好きだが、弟さんの作品が好きだった。 自分自身とまったく違う性格だからなのか。 何に対しても、まっすぐ立ち向かい、人のために何かをすることに力を尽くす。 そんな人物を描き出せる、そんな彼に惹かれていた。 架空の物語だと知っていながら、はまりこんでいた私がいた。 そして、それを作り出した方がそこにいらっしゃる。 私の胸はぎゅーっとしめられる感覚を覚えた。 |
| 「何も、帰らなくてもよろしかったんじゃないの?」 パーティに一緒に行った(というか、彼女のコネでついて行った)が、あまりにも自分とは違う世界過ぎていたたまれない気持ちになってきたので、パーティもすぐに抜け出してきたのだ。 「壁の花、とは聞きますが。12時前にシンデレラ気分ですの?」 いつもの不愉快な口調に加え、意味の分からない例えにまたちょっとムカッとはしたが、昨日のことは自分が悪いという自覚があるので何も言い返さずにいた。 「あれから、あなたのことを何度もしつこく聞いてこられた方がいらっしゃったのよ。ぜひ、お話がしたいって仰ってたから、勝手に約束してきたわ。今夜、6時に」 あぁ、そうなんですかと他人事のように聞いていたら、 「あなたが、お会いになるのよ」 分かってるんですの? と一人で怒っていた。 は? と一瞬間の抜けた…というか、何を言ったのかいまいち分からなかった。 「私が行く? どこにです」 彼女はあきれた、といわんばかりに肩をすくめる。 「あなたのあこがれの方が、あなたにお会いしたいと。だから、今日の夕方6時にお食事の約束を、ワタクシが取り付けてきましたのよ」 感謝して欲しいわね、とまで言わなかったが、顔の表情から見て取れた。 なんとなく、不安と期待が入り交じった気持ちになっていた。 |
| 『明日の天気は、全国的に……』 テレビのニュースが流れている。 今の時刻、4時20分。 約束の場所まで、1時間程度。 そろそろ出るか、それとも行くの自体をやめるか。 変な選択に迫られていた。 行けばいいじゃないかと思う。 ただ、昨日のパーティで気圧されているわたしがいる。 しかも、なんで私なんかを誘ったのかすら理由も分からない。 承諾してから、色々詮索したり、悩んだりすることは愚かなことだってどこかの本に書いてあったのに…。 しょうがない…せっかくの機会だし。 ダメだったらすぐに帰ってくればいいや。 |
| 対処できない状況になったらすぐに帰ろう。 お腹が痛いとかいって…物書きを目指す端くれなのに言い訳が腹痛。 自分のボキャブラリーの少なさにちょっと驚愕しながら。 (この事の原因である)彼女に渡された地図を見ながら街を歩いていた。 彼女は、『私は用事があるから、お一人で行ってらっしゃいな』だそうだ。 まぁ、今更期待はしていない。 それにしても。 ずいぶん想像と違う風景が見えてきた。 オシャレなレストランで食事、なんて想像していたのにどんどん増えてくるのは、サラリーマンが来ますよーみたいな飲み屋ばかり。 実際仕事帰りのおじさんたちが出入りしている姿を見かけた。 合ってるのかしら…と不安を覚えた頃。 遠目ながら、時計を見ながら店の前に立っている、見覚えのあるシルエットが見えた。 「あ、」 私が気がついたのと、彼が気がついたのはほぼ同時だったと思っているだろう。 私はもっと早かったけれど。 「あ、こんばんは」 なんとも間の抜けた挨拶になってしまったが、それも仕方がない。 「こんばんは、来てくれてありがとう」 私は、開いた口がふさがらないとはこのことだと頭の片隅で思った。 |
| 音を楽しむ、というよりは、音を遮断することに注意を集中しないと聞こえない。 隣に座っているにもかかわらず、だ。 音楽がうるさいわけではない。 周りにいる人間がうるさいのだ。 「ごめんね、こういう場所嫌いだったかもね?」 申し訳なさそうに、彼が謝る。 「嫌いではないですが…ちょっと意外だったもので驚いているだけです」 最初の緊張から少し解かれた私は、普通程度に会話できるようにはなっていた。 ただ、周りがうるさい。 「こういう店、好きなんだよね」 お酒はあんまり飲まないんだけど、とおもしろそうに笑った。 変わった人だ、と思った。 お酒を飲まないで、飲み屋に来て楽しいのだろうかと。 「ここは、生きている人間がたくさんいる」 唐突に彼は言ったので、何のことか分からなかった。 「どういう、ことでしょう?」 おでんを頬ばりながら(大根だ、熱くないのかしら)、彼は続けた。 「人間は、生きている。だけど、生きている感じがしない人間もいる」 黙って聞くことにした。 「僕は、あんまり人と接することは得意じゃない。大人数の場所も苦手。だけど、そんな僕が見える世界は、ほんとに小さくて狭い」 何も言わずうなずいた。 「だから、広い世界で、広い視野で物語を作りたいと思った」 ただの根暗かもねと笑っていた。 「でも、僕の視野では物事が狭いし、勝手に想像しただけの世界は不自然だと思う。かといって、自分と似たキャラクターばかりが登場したって、それほど楽しいとは思えない」 だから… 「だから、僕はこういう場所で、自分と全然違う人たちを見て、接して、愛でるようにしている」 「愛でるんですか?」 「だって、理解するためにはある程度好きにならなくちゃいけない。一種、あこがれの気持ちかな」 多分ね…と付け加えた。 「何を言いたかった訳じゃない、ただ君に、ちらっとしか姿は見てないんだけど…」 一瞬言いよどんだ。 「似てる気がしたんだ、ただそれでもう一度会いたかった」 初めて会ったのに、なんてこと言うんだろうねと彼は笑っていたが、私の心の中は複雑だった。 もちろん嬉しいという気持ちが大きかったが、何か単純に喜べない何か深いものがある気がしてモヤモヤした気持ちが消えなかった。 |
| 暗い夜道を歩いていた。 彼とはさっき別れたばかりだ。 久しぶりに空を見上げた気がした。 月がこんなに綺麗だなんて、久しぶりに感じたわ。 しばらくそのまま空を見上げていた。 自分が知らないうちに、涙があふれていることなんて…本当にあるものなのね。 自分でも驚くほど冷静に、静かに事実を受け入れていた。 何故、泣いているかなんて考えなかった。 肌寒い、夜の空。 月の光を少し感じながら、周りの時間は過ぎていく。 |
| 遠いところにいると思っていた彼と会うのはもう何度目だろう。 連絡が来れば行くし、来なければ会わない。 微妙な距離感が心地よくて、久しぶりに誘われれば、「ま、いっか」となって誘いに乗っていた。 「今日も急にごめんね」 彼の仕事に合わせてあっているので、突然(ホントに突然)呼ばれることが多い。 私は小さく首をかしげた。 「いやだったら来ないわ」 彼とは軽口を言えるほど気楽な関係になっていた。 友達、男や女を超えたところで友達でいたい。 そんな気持ちでずっといたから…いや、そうでいたかった。 「じゃ、今日は静かなところに行こうか?」 彼の誘いに私は断る理由もなく、うなずいた。 |
| 「今日だって、突然呼んだのに…どうして断らないの?」 彼は唐突に言う。 彼を見ると不思議そうな、ちょっとおびえた子どもみたいな顔をしていた。 そんな彼を見ていると、思わず吹き出してしまう。 「いやだったら、来ない。そういわなかったかしら? いつもいつもだったら…そうね。断ることもあるかもしれないけれど、月に1度か2度…それぐらいの誘い断らないわ」 あなたに会えるのだから、とは言わなかった。 そういってはいけない気がしたから。 「あなたが望まないなら、これからは断ることにするけど?」 そういうと、ふっと鼻で笑った。嫌みな感じはない。 「僕の、望みか…」 そんなこと…といって、黙り込んでしまった。 「ま、いいや。それよりも」 そういって、いつもの様子に戻ったが、何を言いかけたのかは分からなかったし、追求もしなかった。 |
| 銘の書いてあるカードを読む、が。 全然分からないので、そのままそっと戻しておいた。 静かな場所に来たと思ったら、本当に静かだった。 「ここは、今日も貸し切りだね」 今日“も”という言葉に気になりはしたが、雰囲気は好きだったので黙っていた。 「ここは、よく来るの?」 何となく小声になってしまう、誰もいない…と思っていたら、ちゃんとお店の人がいたので、それに一番驚いていた。考えてみれば当たり前なんだけど。 「んーそうだね。一人でよく来るかな」 へぇ…と言ったきり言葉が出てこなかった。 いろいろなことが頭の中をよぎった気もするが、言葉に表せるほどハッキリは出てこなかったからだ。 「食事する? それとも何か飲む?」 あまりお腹はすいていなかったので、それじゃ紅茶をと頼むと、奥の方で人が動く気配がした。 「じゃ、紅茶2つで」 彼がそういうと、気配はさらに奥に消えていった。 どういうお店なんだろうと内心不安でしょうがなかったが、まぁ、大丈夫だと根拠なく自分を落ち着かせていた。 「ちょっと変わったお店でしょ?」 えぇ、ちょっとじゃないけど。 何も言わずに、うなずいた。 「ここはね、僕が入り浸ってたお店なんだ。誰もいないし、お店の人も静かな人だし。作品を書いたり、本を読んだり、お茶を飲んだり、ご飯を食べたり…ここで生活してるみたいだったんだよ」 周りを見渡す、暗い訳ではない。古いわけでもない。汚いわけでもない。 ただ、独特な雰囲気を持っていた。 「生きてる感じが…しない」 なんとなく言ってしまって、気がついた。 ごめんなさいと、言う前に彼が笑っていた。 「うん、そうだね。生きてる感じはしないよね」 だから僕にピッタリなんだよ、と言った。 |
| それは、全くその通りといえた。 物静かで、騒々しいところより静かなところが似合う人だったから。 以前一緒に行った、飲み屋の方がよっぽど不自然だったから。 ただ、生きてる感じがしない(私の言葉だけど)というのとは、違う。 彼は、生きている。 「昔、僕は生きている感覚を持っていなかった。変な表現だけど」 音のない世界に、彼の声だけが響いている。 「生きている感覚を知りたくて、人のいるところに出かけた。単純だけど、それが生きている感覚だと思った。だから僕はそれにあこがれ、それを愛した…っていうような話はしたことがあると思うけど」 私はうなずいた。 「だけど、それは所詮感覚でしかない。僕は、いつも第三者でしかない。本当に生きているってどういうことだろうって、ずっと考えていたんだけど」 それでね、と彼は続ける。 「君を見かけたとき、ホントに見ただけなんだけど…それでも何か感じたんだ。もう一度会ってなにか分かるかもしれない」 「かすかな期待をかけたわけですね」 ちょっと冗談めかす、かれもそれに応えてうなずいた。 「あ、紅茶。冷めるよ、飲みながら聞いてね。えっと、それで。とにかく僕は君に会って、また次に会いたくなった、それからまた次も会いたくなって…」 今に至るんだけど。そういう彼はとても嬉しそうに見える。 「君は、誘っても断らない。だけど、僕の言うことをただ聞いてるだけでもない。とても不思議だった。君に連絡するとき、ちょっとドキドキするんだ、中学生の初恋みたいな感じなのかもしれないね、僕のイメージだけど」 彼は何を言わんとしているのか、それが知りたくてずっと聞いていた。 「君と恋をしたい、彼女になってくれ、結婚してくれといってる訳じゃないんだ」 ただ、と言って言うのを迷っているようだ、が。その前の言葉でもちょっとは迷って欲しかった。 「ただ君がそばにいると、なんだか全細胞が生きているーって動き出すんだ」 「生きているーって?」 「そう、君と会うとき、会ったとき、話しているとき、君と一緒にいることが心地いい。一人で居るときよりも、ずっと…なんていうんだろう。そう、幸せなんだ」 あこがれの男性から、君と居て幸せだと言われて嬉しくないわけがない。 ただ、こういう時のリアクションの仕方は知らない。 「…そう、ですか」 ただ、彼の精一杯の感情の表現を無下にするわけにもいかない。 何秒かの短い時間で、頭をフル回転させた。 それで、出てきた言葉は月並みな表現ではあった。 「私も、同じです」 |
| 人であること。 男とか女とか、子どもとか大人とか関係なく。 人間であること、それが根本。 彼に抱く気持ちが、恋なのかと聞かれたら少し疑問だ。 ただ、彼と会うことは私にとって楽しみであり、彼との時間は幸福な時間だと感じ、彼もそう思っていてくれるということ。 それで、十分なのではないかと今は思っている。 「愛を語るには、愛を知らなくてはね」 最近彼は、ロマンティストになったようで、おもしろい台詞をたくさん書いている。 人を感動させるには、自分がまず感動しなくちゃいけない。 それを彼に教わったような気がします。 |