『一週間』
| 月曜日 | 月並みな言葉携えて |
| 火曜日 | 火照る空気 |
| 水曜日 | 水彩画に寄せて |
| 木曜日 | 木漏れ日ルート |
| 金曜日 | 金輪際君とは |
| 土曜日 | 土煙の向こう側 |
| 日曜日 | 日向日和 |

| 私は走っていた。 息を切らしながら、久しぶりに走っていた。 そう。私は追いかけなくちゃいけない。 私の人生が大きく変わってしまうかもしれないから。 「待ってー」 息も絶え絶え、足がもつれて走れなくなってきた。 それでも、私は走っていた。 「待って…お願い…」 うなるような声になっていた。 もう、走れない。 「はぁ…また遅刻だよ」 懸命に追いかけたバスに逃げられ、息も絶え絶えな私はつぶやいた。 「あぁ…喉かわいた」 |
| まだまだ寒い冬の空。 一人、夕日を見ながらの帰り道。 空は寒くて、懐も寒い。 あぁ、なんて寒いんだろうと悲観的になっていると、向かいから見知った人が歩いてきていた。 「あれ、一人なの?」 なんとなく、トゲのある言葉のように聞こえたのは、被害妄想だと落ち着かせ 「そうだけど…」 言葉を控えめにした。 「ふーん。それにしても、久しぶりだよね」 まぁね。 素っ気なく答えたら、 「変わってないね、その愛想のなさ」 ほっとけ。と口をついて出そうになったのとほぼ同時 「これでも食え」 差し出された、豚まんが。 ほかほかと湯気を立てて、食べてくれーと言っていた。 「くれるの? なんで?」 警戒心あらわにした私を見てあきれたのか 「寂しそーだから」 そういいのこして、豚まんを手渡し去っていった、高校の時の同級生。 「ありがと」 姿が見えなくなってから、小さくお礼を言う。 ちょっと暖かくなった。 今度会うことがあれば、この借りは必ず返そう。 心に誓った。 |
| 駅に飾られていた一つの“水彩画”に惹かれていた。 テーマは、『未来』らしく思い思いの画材で描かれている未来の絵。 やけに明るいというわけでもない、かといって暗いわけでもない。 見ていると、心が温かくなる。そんな絵だったのでしばらく見とれていた。 絵のことはさっぱり分からないけれど、心が伝わってくるこの水彩画が好きだった。 |
| この季節に似合う、快晴。 雲一つ無い晴天の中、気分良く公園の並木道を歩いていた。 肌寒い季節なので、通りを歩いている人は少ない。 春になると、両側の木いっぱいに桜が咲く。 その季節まで、あと少し…。 空を見上げながら、にっこり笑ってみた。 笑う、なんてちょっと久しぶりだった。 |
| 「君と会うと、僕までおかしくなりそうなんだ」 夕方の路地道。 人はたくさん往来しているけど、ちょうど影になった場所で、口論しているような声が聞こえた。 「それはこっちの台詞ね」 気の強そうな、女性の声もする。 喧嘩をするほど、仲がいいという言葉は聞いたことがあるけど、きっとこの場合は適用外ね。 そんなことを思いながら、通りに戻ると。見慣れた、そしてあんまり見たくない姿が見えた。 「やぁ、また一人?」 またという所に反応しかけた自分を抑え 「あなたもね?」 精一杯誠意を込めて答えた。 「いっつも、なんか怒ってるよね」 あっけらかんとした様子に、毒気を抜かれてそんなことないわよとため息混じりに答えた。 「もうちょっとしたら、卒業だね。どうするの?」 別に関係ないじゃないと思いながら、そうねぇと言葉を濁すと 「僕はね、留学しようと思って」 私の反応を見ているようだったけど、無反応だったのを見てあきれたようだ。 「別に、驚かないだろうと思ったけど。ホントに驚かないね」 「驚かなかった訳じゃなくて、なんで急にそんなこと言ったのかと考えてただけよ」 そこまで言って思い出した。 「そうだ。この間のか…じゃなくて、お礼」 借りとまで言いかけて、言わなかった自分が偉いと思った。 言われた相手はというと、礼? と疑問符が浮かんでいるようだったので、火曜日のことを話した。 「あぁ。別に気にしなくていいのに」 それじゃあ、こっちの気が収まらないとは言わず。 「お別れになるかもしれないでしょ?」 そういうと、彼は 「じゃ、日曜日に。デートでもしようか?」 私は、言葉を失った。 |
| ただの河原。 何の変哲もない、河原。 私はここが好きだったから、休みの日にはよく来ていた。 明日の対策を練るために、ここに来てみたが良い案は浮かびそうになかった。 それもそのはず、主導権は全て相手に渡してしまったからだ。 あまり好きじゃない相手だけど 考えてみたら、毛嫌いする理由もないんだなぁ…と考えてもいた。 つまらないことは脇に置いて、景色を楽しむことにした。 さわやかな風と、心地いい陽気 家族で遊びに来ている姿や、運動のために来ている夫婦… いろいろな形を見ながら、ぼんやりしていた。 ぼんやりしていると、ぶわっという音が聞こえてくるほどの突風が吹いた。 土埃が目に入らないように、目をつぶったが、風はどうやら一瞬だったようだ。 目を開けてみると、どうして気がつかなかったのだろう、こんなに奇麗な夕日に。 川辺に映った夕日が心を打った。 赤、オレンジ、紫まであるこの色彩の絶妙さに感動しない人がいるだろうか。 |
| 約束の2時。 時間通りに、出会い。 「どこに行くつもりなの?」 尋ねても、無駄なようで全く行き先は告げてくれない。 ただ、ついてこいと。 「どうして、デートだなんて言ったの?」 沈黙を破るように、聞いてみた。 「どうして? デーとしたいと思うのに、理由が必要?」 いつもながら、いたずらっぽい表情をしたが、すぐに笑顔に戻った。 「君が鈍感なのか、それ以上に嫌われてるのか知らないけどね…」 彼は続けた。 「僕は、ずっと君が好きだった。だけど、君はそれに気がつかなかったよね」 小声で、付け加えた。 「僕も言わなかったしね」 珍しく、言葉多く語った彼の言葉を反芻した。 「私のことが、好きだった。って言ったの?」 寝耳に水とはこのことだろうと思った。 「全く気がつかない君には脱帽だよ」 言葉が出ない私を、相変わらずの笑顔で言った。 「君と“最後”になる前に、言うだけ言おうと思って」 そうだったんだ、といろいろなところで合点がいった。 「ここだよ」 連れてこられたのは、よく知っている場所だった。 「ここって、高校の近くでしょ? 何度か来たことがあるけど…」 彼はうなずいた。 「僕は、ここによく来てた。君もよく来てたよね?」 「天気が良い日は、日光浴しに来てた」 私がつぶやくと、彼は満足そうにうなずいた。 「初めて君を見たのが、ここだったんだ」 「僕は、ここで君を見た。だけど、誰だったのかなんてハッキリ覚えてなかったよ。でも、まさか学校で会うとは思わなかった。なんだか嬉しくて、僕はきっと滑稽なことをしたんだ」 滑稽なこと…? 私は考えていた、この人を初めて見たとき…いつだっただろう。 学校で、そう教室の前で。 『あ、君は…』 そう声をかけてきた、だけど誰だか全然分からなかった。なのに、彼はお構いなしに 『あの場所にいつも行くの? そこで君を見かけたんだけど、こんなところで会えるなんて偶然だな』 そう、そういった。 何のことか全然分からないし、尋ねようと思ってもどこから聞いていいものやら悩んでいると、チャイムが鳴った… 「思い出した。その時から、なんだか気味が悪い…っていうと、失礼だけど。そう、変な人だと思ったの」 だから、嫌いだと思ったんだ。 特に理由もなく嫌いだと思っていたのは、些細なことで忘れていたからか。 彼は、照れくさそうだった。 「そう。だから、僕は君にもっと近づきたかったけどそうしなかった。僕が勝手に舞い上がってしまって、恥ずかしいことをしてしまったからね」 コホンとわざとらしく咳をした。 「とにかく、僕はここに来れるのもあと少しだし、最近は忙しくてなかなか来れなかったから、君と来たかったんだ」 そういった彼に、初めて好意を抱いた。だから、素直に言った。 「私も思い出せてよかった」 どんなに小さな事でも、思い出せて良かったと。 「連れてきてくれて、ありがとう」 自分なりの精一杯の感謝と、笑顔を込めて言った。 彼は、それを笑顔で受け入れてくれた。 告白を聞いても、昔のことを思い出しても、色々納得してもやっぱり彼と恋をすることはないだろう。 何が悪いわけじゃないけど、彼の気持ちに応えることは出来そうになかった。 ただ、 彼の幸せをつかめるように 私の幸せをつかめるように お互いが、お互いのことを願うことで、恋とは違うけれど、愛し合うことは出来ないだろうか。 そういうと、彼は『難しいけど、それは一番良い形かもしれないね』そういってほほえんでいた。 彼がこれからも笑顔で、幸せになってくれればいいなと心から思う。 来月、彼は留学にイギリスに行くらしい。 私は、私の道を探して、歩いてみよう。 特別なものじゃなくても、“何か”を見つけてみたい。 |